アナログマスターを余すところなくお届けできるDSDの魅力

アナログマスターを
余すところなくお届けできる
DSDの魅力

不朽の名作アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズ。
その世界観をクラシックで表現した「交響詩『ガンダム』 SYMPHONIC POEM GUNDAM」と
「交響組曲Z-ガンダム Symphonic suite Z-GUNDAM」というふたつのアルバム。

いずれも1980年代に大編成のオーケストラが「ガンダム」のBGMを演奏したものです。
もともとはLPとCDでのリリースだったのですが、これらをハイレゾ音源にリマスターし、
配信するプロジェクトが「ハイレゾ浪漫倶楽部(http://hi-res-romanclub.com/)」です。

今回はマスタリング・エンジニアを務められた辻裕行さんに、このふたつのアルバムの
試聴を交えながら「ハイレゾ浪漫倶楽部」の魅力とその楽しみ方について伺いました。

不朽の名作アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズ。その世界観をクラシックで表現した「交響詩『ガンダム』 SYMPHONIC POEM GUNDAM」と「交響組曲Z-ガンダム Symphonic suite Z-GUNDAM」というふたつのアルバム。
いずれも1980年代に大編成のオーケストラが「ガンダム」のBGMを演奏したものです。
もともとはLPとCDでのリリースだったのですが、これらをハイレゾ音源にリマスターし、配信するプロジェクトが「ハイレゾ浪漫倶楽部(http://hi-res-romanclub.com/)」です。 今回はマスタリング・エンジニアを務められた辻裕行さんに、このふたつのアルバムの試聴を交えながら「ハイレゾ浪漫倶楽部」の魅力とその楽しみ方について伺いました。

今回試聴するアルバム

©創通・サンライズ(NKCD11001 ジャケ写)
交響詩『ガンダム』SYMPHONIC POEM GUNDAM
渡辺岳夫のオーケストラ編成の編曲の美しさを堪能出来る「機動戦士ガンダム」の楽曲を、豪華フルオーケストラで演奏した全10曲からなる組曲アルバム。
http://hi-res-romanclub.com/

©創通・サンライズ(NKCD11002 ジャケ写)
交響組曲Z-ガンダム Symphonic suite Z-GUNDAM
Zガンダムの劇中を盛り上げた三枝成彰の傑作BGMを、交響曲に編曲した名作アルバム。
http://hi-res-romanclub.com/

大学時代にバンド活動を通じ、録音の楽しさに目覚めた辻氏。卒業後専門学校を経て、1984年有限会社サウンドクリエイターズ(現・株式会社SCI)に入社。同時にキングレコード録音部へレコーディング・アシスタントとして出向し、そのまま転籍。2000年に㈱キング関口台スタジオ入社後、2002年よりマスタリング・エンジニアとして、あらゆるジャンルの音楽を手掛ける。

■ハイレゾ時代のマスタリング・エンジニア

- 「ハイレゾ浪漫倶楽部」について伺う前に、まずマスタリング・エンジニアがどういうお仕事なのか教えていただけますか。

辻:楽曲が製品として世に出るには、レコーディングされた「マスター」というものから、CDなどのメディアや配信データという形にする作業が必要になります。マスタリングは製品が世に出る直前の最終工程になります。例えばアルバムなどではすべての曲を同じ環境で録音するとは限りません。極端な話、10曲あれば10曲違うアレンジャー、違うエンジニア、違うスタジオ、違うフォーマットということもあります。そこでアルバムとして通して聴いたときに、トラックによって音量にばらつきがあったり音質が著しく異なる場合はあわせたり、ノイズがあれば除去するという作業が必要になるのです。これらはすべてマスタリング・エンジニアの仕事です。


- 音楽業界は長らくCDが主流でしたが、ハイレゾの時代になってからのマスタリングに違いはあるのでしょうか。

辻:CDとハイレゾでは景色の見え方がまったく違うと思います。CDはサンプリング周波数が44.1KHz、量子化ビット数は16bitという非常に制約の多いフォーマットです。この限られたフォーマットの中でいかに良い音を出すか、というのがエンジニアの腕の見せ所となります。対してハイレゾ、とくに今回「ハイレゾ浪漫倶楽部」で採用したDSDの11.2MHzなどでは圧倒的に情報量が違います。表現が難しいですが、小さな枠に納めるCDに対しDSDは思い切り開放された感じです。録音時におけるミュージシャン、ディレクターやエンジニアの意図を極力損なうことなくユーザーに届けることができるフォーマットだと思います。


- 今回の2作品はリマスタリングという作業になりますが、他の方の作品をリマスターする難しさはありましたか。

辻:他のエンジニアが作った作品をマスタリングする時に、たまに作品の意図が良く分からないことがあります。もちろんそれはミキサー(エンジニア)だけの考えではなく、ディレクターや演者の意見が反映されてのものではありますが。ただ今回の2作品については、どちらの作品を担当したエンジニアの方と何度も仕事を一緒にしたことがあり、性格もやり方も分かっていたので、リマスターはしやすかったです。

■「ハイレゾ浪漫倶楽部」で届けたかった音とは

- 「ハイレゾ浪漫倶楽部」では「機動戦士ガンダム」のほか「六神合体ゴッドマーズ」など名作アニメの関連楽曲のハイレゾ化を行っていますが、プロジェクト立ち上げのきっかけを教えてください。

辻:今回取り上げた「機動戦士ガンダム」は、今でも新作が作られる人気シリーズですが、キングレコードには過去のアニメ作品や特撮作品の楽曲が数多くストックされています。近年こうした作品の再評価がファンの間で盛んなのです。また、こうした流れとは別にキングレコードでは7年ほど前に Pyramix というDAWを導入しました。PyramixではDSDの11.2MHzという現状最高音質のフォーマットが使えましたので、この機会に当時のアナログマスターに新たな光を当てるためにハイレゾ化しようという企画が持ち上がったのです。これが「ハイレゾ浪漫倶楽部」というプロジェクトのきっかけでした。
※ Digital Audio Workstation。パソコンで作曲・編曲などの音楽制作を行うシステムの総称。


- やはりクラシック作品のハイレゾ・リマスタリングは気合が入るものでしょうか。

辻:僕の場合、普段が少人数のスタジオ録りが多かったので、こういう大きな編成ですとそれだけウキウキしちゃいます(笑)。当時の資料を見ると「交響組曲Z-ガンダム Symphonic suite Z-GUNDAM」では指揮者を入れて56人編成、「交響詩『ガンダム』 SYMPHONIC POEM GUNDAM」は詳しい資料は残っていないのですが、写真を見る限り60人近い編成だったようです。これだけ大きな編成だと、なるべくそのままお届けしたいですよね。「交響詩『ガンダム』 SYMPHONIC POEM GUNDAM」は16チャンネルのマルチをミックスダウンした1/4のアナログマスターだったのですが、「交響組曲Z-ガンダム Symphonic suite Z-GUNDAM」は2チャンネルのX80というデジタルレコーダーでの一発録りでした。ところがこのX80のデジタルマスターは現在では再生できず、当時コピーされたアナログマスターをハイレゾ化しています。とはいえもちろんCDよりはずっと高音質になっています。


- 今回取り上げた2作品とも交響曲でとてもDSD向きだと感じました。

辻:そうですね。2作品ともアナログマスターの完成度が高かったので、最初に聴いたときにディレクターとも相談して、なるべくいじらずそのままお届けしよう、ということになりました。ただ何十年も前のマスターテープでしたから経年変化で若干のハイ落ちがありました。ですので、そこだけはイコライザーで持ち上げました。でも大きくいじったのはそのくらいです。いずれも大編成のオーケストラですが定位も非常に良くて、とくに細工をしなくてもオケの形をそのままDSDに落とし込むことができたと思います。


-「ハイレゾ浪漫倶楽部」ではDSDのほかPCMでのハイレゾ音源もラインナップしていますね。

辻:はい。現在はDSDの11.2MHzと5.6MHz、あとPCMは192KHz/24bitと96KHz/24bitの4つのフォーマットでスタートしました。これらはアナログマスターをDSDの11.2MHzでハイレゾ化した後、それぞれのフォーマットにダウンコンバートしています。PCMに対しDSDは情報量も格段に多く、また聴こえ方も自然なので今回のようにアコースティックな楽曲のハイレゾ化プロジェクトには非常に適していると思います。ただ元は同じデータなのですが、PCMは情報量の差だけではなくエッジが立っているように聴こえます。対してDSDはエッジがまろやかで、誤解を恐れずに言うとアナログ的な聴こえ方です。これは個人的な意見ですが、私の世代はすでにLPよりもCDを聴いてきた時間の方が長くなっています。だからだと思いますがエッジの立ったPCMの音の方が耳馴染みがあるのです。情報量としてはDSD11.2MHzの方が圧倒的なのはもちろんですが、PCM192KHz/24bit、96KHz/24bitと聴き比べていただいてその違いや、ご自分の好みを見つけていただくのも面白いかもしれません。

■オーケストラの位置関係まで再現する定位の良さ

-今日、TEACにお越しいただき、UD-701N+AP-701とタンノイTURNBERRY/GRの組み合わせで「交響組曲Z-ガンダム Symphonic suite Z-GUNDAM」と「交響詩『ガンダム』 SYMPHONIC POEM GUNDAM」をご試聴いただきたいと思います。UD-701NはUSB DACを内蔵し、ネットワークプレーヤー機能を搭載したアナログプリアンプです。またAP-701はトロイダルトランスからアンプモジュールまで左右完全独立構成としたパワーアンプ。TURNBERRY/GRはタンノイの伝統を受け継ぐ同軸ユニットを用いたフロアスピーカーです。

今回試聴する製品

Referenceシリーズ USB DAC/ネットワークプレーヤー
UD-701N
新開発のオリジナルディスクリートDACを搭載。オーディオシステムの中枢として、すべてのオーディオファイルを魅了する先進のオールラウンダー。

Referenceシリーズ ステレオパワーアンプ
AP-701
パワーアンプモジュールに専用設計のHypex社製 Ncoreを2基搭載した、デュアルモノーラル構成のパワーアンプ

PRESTIGEシリーズ スピーカー
TANNOY TURNBERRY/GR
クルトミューラー社製ウーハーコーンを採用した10インチ・デュアルコンセントリックドライバーを、天然ウォルナット無垢材を使用した優雅で美しいフロア型キャビネットに収めた逸品。

今回試聴したシステムはコンパクトなセパレート構成のシステムながら、タンノイの上級ラインのTURNBERRY/GRを存分に鳴らす実力を持っていました。

USB DACを内蔵したネットワークプレーヤーUD-701Nはデジタル器機のハブとしてプリアンプとしても使える便利なコンポ。繊細な表現もできる実力機です。

AP-701は美しくコンパクトなボディにトロイダルトランスを2基搭載し260W+260W(4Ω)を発揮する、本格的なデュアルモノ・ステレオパワーアンプです。

辻:じつはこちらに伺う前に昨日スタジオで聴き直してみたのですが、先ほど聴かせていただいたシステムでもほとんど印象が変わりませんでした。私たちの思ったとおりに表現されていると感じました。むしろスタジオで聴くよりも、目の前に楽器がくっきりと見えてきた気がします。これは同軸スピーカーのせいなのかなと思いました。アンプとのバランスが非常に良くて、とてもきれいに聴こえました。


-普段スタジオで聴かれている音よりもずっと小さなボリュームで聴かれていたのではないですか。

辻:確かにいつもはびっくりするくらい大きな音で聴いています。スタジオでは粗を探すためにある程度の音量は出しておかないと、というのがあるのですが、じつは細かいノイズや歪といったものは小さな音量の方が分かりやすいのです。マスタリングでも最終工程で歪み感やノイズのチェックをするときはボリュームをかなり絞って聴きます。大音量だとごまかしが効くというか、音量に騙されちゃうようなところもあるのです。なのでスタジオでも最終チェックは先程こちらで聴かせていただいたくらいの音量ですね。こうしてスタジオの音と比べてみると、このシステムの素性の良さがよく分かります。歪がなくとてもすっきりとした音で聴き疲れもしません。かといって表現力も十分で物足りなさは感じない。良いシステム、良い組み合わせだと思いました。今回のようなオーケストラを堪能するにはぴったりですね。

- 今回のような交響曲はハイレゾ、とくにDSDで聴くととても良いですね。。

辻:先程も申し上げましたが、この2作品はアナログマスターがとても良かったのでDSDのメリットを活かすことが出来たと思います。ただアナログにはアナログの良さがあるのも事実です。例えば今回はマスターも試聴機も非常に低歪で問題がなかったのですが、もし歪みがある場合、デジタルだとすごく気になるのです。でもアナログだとそれほど嫌な感じがしない。むしろアナログだと歪も味というか、歪すら情報の一部のように感じて、豊かな音だと思ってしまうことがあります。まだまだマスタリング・エンジニアとしてアナログに学ぶことは多いです。


-最後に「ハイレゾ浪漫倶楽部」の今後について教えていただけますか。

辻:「ハイレゾ浪漫倶楽部」では今回取り上げていただいたe-onkyoでのハイレゾ配信のほか、UHQ-CDでの販売もしています。現在はこの2つの販路で市場の動向を見つつ新たな展開をできるように検討中です。ただ先程もお話いたしましたが、キングレコードにはこうした素材が豊富にあるので、とくに昔のアニメや特撮作品のファンの方は応援していただけるとありがたいです。


-「機動戦士ガンダム」「六神合体ゴッドマーズ」以外にも若い頃夢中になったアニメや子供の頃にテレビに齧りついていた特撮作品が山のようにあります。いずれそうした作品にもスポットライトを当てていただき、ハイレゾ音源として再び出会える日が来ることを楽しみにしています。
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

※ 本文中の辻氏の字は、点1つのしんにょうの「つじ」です。