チルアウトサウンドを支える
ティアックオープンリールデッキ「X-2000M」
@big turtle STUDIOS

チルアウトサウンドを支える
ティアックオープンリールデッキ「X-2000M」
@big turtle STUDIOS

Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ、Kan Sanoといった錚々たる
アーティストを擁するorigami PRODUCTIONSのレコーディングスタジオであり、
他の数々のアーティストにも使われているbig turtle STUDIOS。

このたびbig turtle STUDIOSで行われたアルバム
「NieR Re[in]carnation Chill Out Arrangement Tracks」のマスタリングにおいて、
ティアックのオープンデッキ「X-2000M」(1984年より生産開始・生産完了品)が使用されました。
あえてオープンデッキを使用した理由や狙った効果などについて、
big turtle STUDIOSのレコーディングエンジニアyasu 2000氏、
本アルバムのプロデューサーの石川 快氏(BISHOP MUSIC)、
本作参加アーティストのHiro-a-key氏にお話をうかがいました。

Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ、Kan Sanoといった錚々たるアーティストを擁するorigami PRODUCTIONSのレコーディングスタジオであり、他の数々のアーティストにも使われているbig turtle STUDIOS。このたびbig turtle STUDIOSで行われたアルバム「NieR Re[in]carnation Chill Out Arrangement Tracks」のマスタリングにおいて、ティアックのオープンデッキ「X-2000M」(1984年より生産開始・生産完了品)が使用されました。あえてオープンデッキを使用した理由や狙った効果などについて、big turtle STUDIOSのレコーディングエンジニアyasu 2000氏、本アルバムのプロデューサーの石川 快氏(BISHOP MUSIC)、本作参加アーティストのHiro-a-key氏にお話をうかがいました。

- レコーディングスタジオ「big turtle STUDIOS」ついて教えてください

yasu2000:11年ほど前にorigami PRODUCTIONSの社長の対馬芳昭と僕で物件を見つけるところから始まって、仕事の合間を見ながらほぼDIYで10年間かけて作り上げてきたスタジオです。ミキサー埋め込み型の卓も自分たちで作りました。

origami PRODUCTIONS
https://ori-gami.com

big turtle STUDIOSのレコーディングエンジニアyasu 2000氏

big turtle STUDIOSのレコーディングエンジニアyasu 2000氏

big turtle STUDIOS

- とてもDIYとは思えない、素敵なスタジオですね。

yasu2000:ありがとうございます。でも最初、スピーカースタンドはブロックを積み上げていましたし、配管も剥き出しでした。材料を買ってきて、時間をかけて少しずつアップデートしてここまできました。用途としてはorigami PRODUCTIONSのアーティストの制作がメインですが、外貸しもしていて、外部のプロデュースワークや、レコーディング、バンドの一発録音などにも対応しています。


-big turtle STUDIOSにはどんな特徴があるのでしょうか。

yasu2000:このスタジオは独特の響きがあります。一般的なレコーディングスタジオであれば壁面にびっしり吸音材を詰めて反響を抑えこむわけですが、このスタジオは壁面に木を多く使っているのでウッディで暖かい響きがします。その自然な鳴りを重視しています。もちろんスピーカーからの再生音は測定してフラットにはしてありますが、室内に関しては、ルームエコーをわりと効かせてます。


-どんなタイプのアーティストに使われることが多いですか。

yasu2000:origami PRODUCTIONのアーティストはブラックミュージック系ですが、その中でbig turtle STUDIOSで作るものはどちらかと言うとちょっと温かみのあるアコースティックなサウンドが多いですね。それとハウスエンジニアである僕が、もともとヒップホップのトラックメーカーやDJを やっていたことがあって、キックやローを重視するので、サウンド的にはちょっと低音寄りだと思います。

Big turtle STUDIOS website
https://bigturtle.info

マスタリングでティアックのX-2000Mを導入したのは、
チルアウトサウンドに「暖かみ」がほしかったから

- ティアックのオープンデッキX-2000Mを使用した作品について教えてください。

石川:私はBISHOP MUSICという音楽制作プロダクションでプロデューサーをやっているのですが、このたび「NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)」というスマホゲームのサウンドトラックのチルアウトアレンジアルバムの依頼を請けました。このアルバムのマスタリングのためにティアックの「X-2000M」を使わせていただきました。

BISHOP MUSIC プロデューサー石川 快氏

BISHOP MUSIC プロデューサー石川 快氏

NieR Re[in]carnation Chill Out Arrangement Tracks
https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/nier/rein_chill/

- Hiro‐a-keyさんはこのアルバムにアーティストとして参加されているのですか。

Hiro-a-key:はい。このアルバムはチルアウトアレンジということで、ゲームの原曲のデータから再構築して、そこに自分のカラーを入れたり、プロデューサーの石川さんからいただいたアイディアを形にしていく作業でした。「チルアウト」って最初はぼやっとしか分からなかったのですが、デモを作って聴いていただいたら「すごくいい感じ」という評価をいただいたので、そこから僕の声を入れたり、原曲のクラシカルなコード進行を循環コードにしたりしてアレンジを発展させていきました。

Hiro‐a-key氏(アルバム参加アーティスト)

Hiro‐a-key氏(アルバム参加アーティスト)

- 「チルアウト」というとローファイ的なサウンドですか。

Hiro‐a-key:そうですね。ローファイってヒップホップのビートが元になっていると思うんですけど、あえてそれに寄せたくないなと思いました。通常のヒップホップは2拍、4拍にスネアがきますが、あえてそうしなかったんです。とはいえ僕もヒップホップを通っているので、そのフレーバーは感じられるように、絶妙なさじ加減を狙っています。


- マスタリングにおいてティアックのオープンデッキX-2000Mを使うアイディアはどうして出てきたのですか。

石川:実は2年前にもあるゲームのチルアウトアレンジのアルバムを担当しまして、その時にもyasu2000さんにお願いしました。そのアルバムで「マスタリングで暖かみがほしい」とyasu2000さんに相談したら「オープンリールデッキで録音/再生する」という手法を提案してくれて、実際にティアックさんからX-2000Mをお借りしてやってみたら本当に良かったんです。それで今回も同じ手法を使いたくてyasu2000さんにお願いしました。特に今回のアルバムはいろんなアーティストの楽曲が入ったコンピレーションでダイナミックレンジもかなり違うので、アルバムとしての統一感を出すためにマスタリングで一貫性を作りたかった、という思いもありました。

ティアックオープンリールデッキ「X-2000M」(1984年より生産開始・生産完了品)

ティアックオープンリールデッキ「X-2000M」(1984年より生産開始・生産完了品)

- 昨今はDAWで音楽制作を行いますが、パソコンで使えるテープのシミュレーションやヴィンテージコンプのイミュレーターのプラグインなどのツールがたくさんあると思います。それらとテープデッキの実機ではそんなに違いますか。

yasu2000:正直言って全然違いました。僕はこれまであらゆるプラグインとアナログ機材を駆使してヴィンテージのテープサウンドを追求してきたんですけど、結果的に実機のサウンドにまでは到達できていなかったことが、やってみてよくわかりました。

- シミュレーションとテープデッキの実機では具体的にはどんなところが違うのですか。

yasu2000:痛いところがないって言うんでしょうか、オープンリールデッキの方が音のエッジに明らかに丸みがあります。低域もスーパーローが出てくるわけじゃないんですが、中低域のあたりのローがモワっとせずにきれいに歪んだローが出てくる。これがどうしてもシミュレーションでは再現できないんです。


- 石川さんは、マスタリングでX-2000Mを使うと、どんな風に音になると感じましたか。

石川:音の違いを言葉で表現するのは難しいんですけど、僕たちはよく「気持ちいい」 って言い方をします。「気持ちいい音」になるんですよ。いずれにしてもシミュレーションとテープを実際に通った音では明らかに音は違います。


- DAWで作られた音楽データはずっとデジタルデータでプロセッシングされますよね。そのデータがマスタリングでいったん磁気テープにアナログ録音され、また再生されてデジタルに戻る、ということでしょうか。

yasu2000:そういうことです。僕は現状ではこれが一番良いやり方じゃないかと思っています。録音やミックスの段階である程度の音圧を稼ぐのは、DAWじゃないと難しいと思うんです。DAWで高解像度かつ、音圧が高いレベルの楽曲データを作っておいて、最後の最後、マスタリングの段階でアナログのテープに録音して一回音にリラックスしてもらう。高解像度のデジタルデータって、この段階でテープに録ってもそんなに解像感は落ちないんですよ。お風呂に浸からせるという感じかな? ビシッとしたものを一回アナログでちょっと緩めて、最後にもう一回デジタルに戻して再調整する、これがいい感じです。

ティアックがテープデッキのメンテや新品のテープの
販売をしてくれていることに感謝しています

- 今回のNieR Re[in]carnation Chill Out Arrangement Tracksの制作においては、ティアックのオープンリールデッキX-2000Mは、なくてはならない存在だったのでしょうか。

石川:マスタリングの日程を出すために、yasu2000さんのスケジュールとティアックさんからX-2000Mをお借りする日程を調整したんですが、けっこう厳しかったんです。僕はプロデューサーなのでX-2000Mを借りられなかった場合も想定しようとyasu2000さんに相談したら「無理ですね」とバッサリ斬られました(笑)。無理してX-2000Mを用意いただいたティアックさんには感謝しています。

- マスタリングはティアックのX-2000Mありき、のスケジュールだったんですね。

yasu2000:はい。この実機もティアックさんに「一番程度がいいものをお借りしたい」と相談して選んでいただいだきました。big turtle STUDIOSにも一応ティアックのオープンデッキが1台あるんですけど、メンテが行き届いていなかったので、今回は程度がいいデッキがお借りできて本当に良かったです。テープデッキはもう新たには購入できないですし、中古で探しても程度がいいものってめったにないので、ティアックさんには感謝しています。


- 以前オープンリールデッキを作っていたメーカーでも、今はもうメンテナンスや修理をやっていないところも多いと思いますが、ティアックのように修理やメンテナンスを今もきちんとやっているのは、音楽の作り手としても助かりますか。

yasu2000:すごく助かります。しかも新品のオープンリールのテープもティアックさんがインターネットで販売していて。今この時期にオープンリールのテープが新しく買えるのは助かります。

- 最後にスタジオの今後のお話などがあればお聞かせください。

yasu2000:DIYで進化してきたbig turtle STUDIOSですが、今後は空間オーディオの制作に対応するため、さらに改造しようと思っています。具体的にはブースを減らしてコントロールルームを広くし、スピーカーを12個ぐらい設置したいと思っています。コントロールルームが広くなったらマスタリング用にオープンデッキを置きたいと思っています。まだ誰も空間オーディオでテープデッキを使ってコンプをかけている人って多分いないと思うので、それもあっていいかなと思っています。


- それは楽しみです。本日はマスタリングで忙しい中ありがとうございました。

TEACオープンリールデッキのメンテナンス・修理のご相談を承っています

TEACの歴史は、TD-102(1957年)アナログオープンリールテープデッキから始まりました。「記録」と「再生」にこだわり続けていることから現在でもオープンリールテープを販売しております。オープンリールデッキは、製造からすでに40年以上経過している製品もあり、限られた部品でのメンテナンス・修理の対応となりますが、全力でサポートをさせていただきます。一度、ご相談ください。詳しくは以下のページをご覧ください。